crocus
そしていよいよ、扉を開けようとする音は隣まで迫っていた。1人ではない、ザクザクと石を踏む音が疎らに聞こえる。
恵介は母さんからのプレゼントを服の中に仕舞い、若葉ちゃんを背で隠した。
正面の扉まで来て鳴り止んだ足音。扉一枚向こうに警備員が待ち構えている。
右側からスゥと細い光が射し込み、その幅は徐々に広がっていく。集中力を極限まで注いでいるためか、その光景がスローモーションに見えた。
「あ、見っけ!」
その聞き慣れた声、見慣れた顔が琢磨であることを認識した時には、琢磨に向かって体当たりする体勢は出来上がっていた。
「うゎ!え!ちょおっ…」
「…………あ」
見事に不意を突かれた琢磨は地面に思いっきり倒れ、恵介はそれをぽかんと見下げた。
恵介の両隣では、恭平と誠吾が立っていて、同時に身ぶり付きで「セーフ!」と心底安心したように呟いた。
「セーフ…じゃねぇよ!」とツッコミを入れる琢磨は、服をパンパンと叩きながら起き上がった。
「ごめん、アウト君」
「誰がアウト君だよっ!お前全然悪気ねぇだろ」
「ないよ、アウト君」
喚く小猿の相手も早めに切り上げ、倉庫にいる若葉ちゃんに手を伸ばした。
「立てる?びっくりしたね。まさか恭平達だったなんて」
「あ、すみません。ありがとうございます…。本当…まだバクバクしてます」
恵介の手を取り、出てきた若葉ちゃんは片方の手で着物の襟をきゅっと掴んだ。