crocus
「哲平さんって、…恭平さんの幼馴染みでサッカー部だった方じゃ…」
隣で様子を見守っていた若葉ちゃんが、思い出したように呟いた。
確かに恵介も聞き覚えがあった。サッカーの決勝戦の直前に、恭平を閉じ込めた張本人だ。その後、彼の母親の療養のために引っ越したはずだ。
「恭平…?なんでここに?」
「それはお前もだろ!?…いや、待てよ?…そうかぁ、哲平は就職しててもおかしくないよなぁ?あははは…じゃまた後で!」
いやいやいやいや、無理だから!爽やかに去ろうったって、もう関係者にバレたから!
…と、ここにいる全員が心の中で恭平に突っ込んだだろう。琢磨と誠吾に至っては、手の甲をスライドさせ空を斬っていた。
「…待って、恭平!何か困ったことが…もしかして秘書の大島さんに用があるんじゃ…」
恭平を引き止めた哲平くんは、聞き慣れない名前を出した。
「あん?いや、俺らは鮫島って人に用事がある桐谷っていう仲間を探してるんだわ。じゃっ!」
だーかーらー、ウィンクしながら去っても無駄だから!どうして喋っちゃうかな、この馬鹿は!!
…と全員の心の声が文字になって頭に浮かんでいる。琢磨と誠吾に至っては、残念な恭平を指差して泣いていた。
さすがの恭平も過ちに気づいたようだ。