crocus


「こんなことを話しても、俺は鮫島さんだけを悪者にして、責任転嫁するつもりはないよ。実際に行動を起こしたのは俺自身なんだから」

"今でも俺の中に住んでる悪魔の部分が怖いんだ"

そう言う哲平の声は切なく震えて、恭平の心を痛いほど締め付けた。その気持ちは、つい最近まで恭平が抱えていたものと同じだったから。
 
自分の辛い経験が、他の誰かを助ける力になれるかもしれない。無駄なものなんてないんだという確信を得た瞬間だった。

「そういうのは溜め込むといつか焼け焦げるぞ?…いいから、話してみろよ」

哲平と今日初めてちゃんと視線が合わさった。哲平の瞳の奥が力強く輝き出した。

「…決勝戦の日、ちょうど母さんの外出許可が主治医から降りてたんだ。母さんすっげぇ…嬉しそうで楽しみにしてて…。だから…レギュラーとして出れるんだって…嘘ついたんだ。ガッカリさせたくなかった…っ、でも…恭平のことだって、チームだってすっげぇ大事に思ってたよ…」

こめかみに青い血管の筋を浮ばせるほど、強く歯を食いしばっている哲平。涙も鼻水もダラダラと流れてる。

「だから俺…本当に勝手だけど…恭平に賭けたんだ。旧体育館の放送ブースに来たら、俺が出ようって。鮫島さんの話をすぐに断らなかった自分が嫌で、嫌で、そんな部分を知られるくらいなら、俺自身の仕業で嫌われようと思ったんだ」
 

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