crocus
前を見れば、鮫島さんが『社長室』と書かれたと重々しいプレートが掲げられた部屋ではなく、その手前の部屋の前で、社員証らしき物をインターホン型のリーダにかざしてから入って行く。プレートには『第一秘書室』と書かれていた。
せっかく1人になったところだったのに、隙を突かれてしまった。要が立ち尽くしていると、鮫島さんが入った部屋の扉がまた開いた。
「いらっしゃい。要くん」
笑顔を張り付けたでそう言った鮫島さんに、要は動揺を隠せない。
「君が付けていたのは気づいてたよ。まぁ、入りなさい」
元々、きつね顔の鮫島さんは見える瞳の面積が少ない人だ。だから当時は、真顔でさえ笑っているように見える穏やかな人だったけれど、今はその顔から感情を読み取ることは出来ない妖しさが滲み出ていた。
「失礼します」
しかしここで引くわけにはいかない。元々、話を聞きに来たのだから。本来の目的を全うするために前進し、要が第一秘書室に入室した。