crocus
とても品のない、馬鹿にしたような高笑いを、じっと堪えて見据えた。
「いやぁ、あはは…すまないっ!くっ…君のお父さんはまだ本当のことを話していないんだね。はぁ~…腹痛い…。よっぽど君のことが大事なんだね、桐谷社長様は」
「父は…そんな血の通った人間じゃありません」
「ふふ、確かにそうだね…表向きは」
意味深な言い方をする鮫島さんは、どすんっと机の上に座った。一度体を前に倒し、また上体を戻すと、当時の要が慕っていた鮫島さんの穏やかな笑顔をして見せた。
けれど、それが演技。いや…当時から演技だったことが明確になった。きつく拳を握り締めて、屈辱を奥歯で噛み殺した。
もし…ここで鮫島さんに危害を加えれば、下で要の帰りを待つクロッカスの仲間にも迷惑がかかるかもしれないからだ。
「僕はある目的のために、親の愛情に飢える君に取り入ったんだよ。桐谷社長の唯一の弱点は、君と茜ちゃんだったからね。すぐに懐いてくれた君は可愛かったなぁ…」
頬を高潮させて、うっとりとした悦の入った声で言う鮫島さん。無邪気だった中学生の自分を思い出されていると思うと虫唾が走る。
「要くんが知っての通り、僕は冷徹非常な社長に濡れ衣を着せられて突然解雇された可哀想な人。だけどそれは、要くんの怒りを桐谷社長だけに向けさせるための偽りの僕の姿なんだよ。…桐谷社長自身が考えた、ね」
「…」
「さすがの要くんにも、訳が分からないって顔だね。ずっと信じて、ずっと実の父親を恨んできたんだからね」