crocus
鮫島さんの言う通り、母さんや鮫島さんのためにと、父さんに復讐するためだけに努力してきた。それは紛れもない事実だ。
「もし本当に父が僕のために嘘を作ったとして、隠された事実は何なんですか?」
「…要くんは、僕が解雇された理由を覚えてる?」
「会社の極秘の顧客リストを他の社に売った…ですよね」
鮫島さんは正解とでも言うようにニヤリと笑う。そしてすぐさま要の頭の中で1つの憶測が浮かんだ。
「まさか…本当にしたんですか?そして…それを売ったという会社は、ここですか?」
「ご名答。僕は値段にして20億はくだらない情報提供を条件に、ここの第一秘書になったんだ。でも実際には、その前にバレちゃってね。でも…僕には1年かけて手懐けた保険があった」
「それが…僕ですか」
「そう。桐谷社長に言ったんだ。『信頼していた人間が、忽然と姿を消したら?しかも実は自分を利用するために近づいたと知ったらどれだけショックなんでしょうね?』って」
くくくっと息を殺して笑う鮫島さん。その光景が突きつけられた新事実の衝撃にぐらりと歪む。
あの仕事人間の父さんが、僕を悲しませないために、20億もの損失を見す見す見過ごしたというのか。
母さんの1年忌で鮫島さんの解雇理由を身震いしながら父さんに尋ねたことを思い出す。あの時の父さんの瞳には会社ではなく、息子の要がちゃんと映っていたのだ。
でもそうだとしても、父さんが母さんを見捨てたことに変わりはない。
「そうだ…要くんは覚えてるかな?僕が教えたんだよね。お母さんが亡くなる直前まで、桐谷社長がゴルフをしていたって。でもね、本当は…要くん入学祝いのプレゼントにカメラを選んでいたんだよ?要くん、あの頃、写真好きだったもんね」
次々明かされる話は頭に入ってくるのに、心が慌てふためき整理に追いつかない。けれどそんな姿を、この男にだけは見せたくはない。
要はかろうじて2本の足で体を支え、声が震えないように感情を抑えて話した。
「どうして…そんな回りくどい嘘をつく必要が?」
「だって本当のことを話して、要くんと桐谷社長に和解されると、僕の計画に支障が出るじゃない?」
狂ってる。こうまで非道になれるほどにこの人を突き動かしているものは何なのだろう。