crocus

鮫島さんは座っていたデスクから降りると、革靴をカツカツと鳴らし、窓際に置いてあった花瓶の中の黄色い花を指で一輪突いた。

「でも嘘なんてつかなくても…和解なんて出来なかっただろうけどね」

鮫島さんは突いた黄色い花を花瓶から抜き、胡散臭い切ない表情の演技をしながら花を見た。

「だって…桐谷社長は奥さんの見舞いに行く度に、菊の花を贈り続けたんだから。墓参りを思わせる花を贈るなんて、付き添って見ていた僕は鳥肌が立ったよ」

赤の他人に母さんを勝手に哀れまれた要はさすがに理性に限界を迎え、鮫島さんに殴りかかろうとした、その時。

「それはあなたの誤解です!」

突如、背後で扉が壁に激しく当たる音が室内に響いたかと思えば、社員証を片手に握り締め、スーツを着た雪村さんが大声で叫んでいた。

彼女の後ろには、恭平達と見慣れない男が1人。全員が鮫島さんを睨みつけている。おそらく、いつからか会話を盗み聞きしていたのだろう。

「何だ!?お前たち!ここをどこだと…」

「桐谷さんのお父さんが贈ったのは、スプレー菊です!」

鮫島さんの言葉を遮り、雪村さんは懸命に言葉を紡いだ。


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