crocus


「…それがなんだっていうんだ」

「スプレー菊の花言葉には『私はあなたを愛する、逆境の中で元気』というものがあります。桐谷さんのお父さんの寝室で、スプレー菊を挟んで映る2人の写真立てを見ました!」

感情が昂ぶる雪村さんの瞳の縁いっぱいに、グラグラ揺れる涙が光っている。

「それがなんだっていうんだ。そんな花言葉を知っていたのかなんて分からないだろう?」

その言葉を受けてぐっと下唇を噛み締めた雪村さんは、首を回して要を見た。

「桐谷さんは…お父さんに確かめることが出来ます!…今までは親子の会話が足りなかっただけです。何を考えて、何がしたいのかなんて友達だって、親子だって話さなきゃ分かるわけないんです…。どうか、後になって後悔しないうちに…」
 
雪村さんは言い終わると表情を歪めた。大粒の涙がついに零れる。

「後悔」という言葉に彼女の生い立ちを思い出し、言わせてはいけない言葉を言わせてしまったと、要は顔を強張らせた。

雪村さんに近寄り、スーツの袖でゴシゴシと荒く目を擦る彼女の頭を優しく撫でた。言われるまで分からない自分をどうか許してほしいと、願いながら。
 

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