crocus
「悪かったな、みんな。帰ろう」
「いや…待てーい。俺はまだこいつに用事がある」
みんながいる扉に向かって歩き出すと、恭平が険しい表情で1歩前に出た。
「恭平さん?」
「悪いね、若葉ちゃん。ちょっと待ってて」
恭平が心配する若葉の肩に手を置いて諭した。すると鮫島さんのデスクを叩くバンッという鈍い音に、一同が反応した。
「今、若葉って言わなかったか?」
これまでになく激しい感情を露にし、血走る2つの眼は、じとりと若葉を捕らえていた。
恭平は口を押さえ、しまったと表情に出した。
「ふふっ、これはこれは。雪村財閥の孫娘、雪村若葉さんですね?安心してください。あなたの肩書きには興味ないんで」
若葉を下から上へと舐めるように観察する鮫島さんは、ゆっくりと歩み寄ってくる。
すかさず若葉の目の前立ちはだかれば、恭平達も同時に若葉を隠した。
「あーあ…怖いなぁ。…ん?そこにいるのは榊原くんじゃない。…そう、今度は僕を裏切るんだね。君の得意技だ」
鮫島さんのその言葉に食いついたのは、恭平だった。