crocus
「自己紹介が終わったところで、このお店のシステムを紹介するわね」
リビングの真ん中にあるテーブルを全員で囲むように座り、オーナーさんが分かりやすく説明してくれた。
ここのカフェは昼と夜の顔があり、夜の顔は週2回、金曜と土曜に見ることが出来るという。その日は昼の部の開店が午前11時。閉店は午後3時。夜の部が、午後6時から午後10時まで。
金土以外は通常営業で、開店が11時、午後7時閉店という、少し複雑な仕組み。
「ま、日々こなしながらゆっくり覚えていくといいわ。それから……雪村若葉ちゃん」
「はい!」
改めて名前を呼ばれ、若葉はオーナーを見上げた。ウズウズと興奮したような潤んだ瞳をしている。この表情は上矢さんも上手そうだと、頭の端で思いながらオーナーさんの言葉を待った。
「このお店の名前……まだ言ってなかったわよね?」
そう言われてみればそうだと、若葉は盲点に気付きオーナーに問いてみた。
「なんですか?大切なこと聞いていませんでした……」
雇われの身分で今頃気づいて失礼だったかな、と申し訳なくなるが、オーナーさんはそれをサラリと払拭するように晴れやかに言った。
「ここの店のな・ま・えはぁ……な、な、なんとぉぉ!ドゥルルルルルルルルルル……」
「うわっ、セルフドラムロール……」
「なんで店名を引っ張ってるんだろうねー?」
「なぁー。クロッカスなんて……靴みたいな名前なのにな」
「え?」
「……え?」
琢磨くん、上矢さん、上田さんの話の中に出てきた『クロッカス』の言葉に、若葉が驚いた声を出すと、店名を発言した上田さんがすぐにおうむ返しした。
「私の一番好きな花なんです!ちょっと確認してきます!」