crocus
"ほら、花冠…出来たよ"
"ありがとう!これで、はなよめさんになれるかなー?"
"ふふっ、結婚のご相手は?"
"──…くんだよ!"
まだお父さんとお母さんが花屋さんを経営していたとき、よく遊んでくれる年上の男の子がいた。
記憶は朧気で名前も忘れてしまったけれど、初恋のその男の子の笑顔だけはしっかり覚えている。
そして…今、その男の子が目の前に現れた。鮫島さんの息子さんという形で。
駐車場で見つけたときは、一瞬通りがかっただけだったから、他人の空似かもしれないと、はっきり判断出来なかった。
それ故に追いかけてしまって、橘さんを巻き込んでしまったことに責任を感じていた。
けど、やっぱりこうして対面すると、当時はなかった眼鏡をかけてはいるけれど、間違いなく初恋の男の子の面影を所々に残して、紺色のスーツが似合う素敵な男性になっていた。
そして、再会に驚いているのは、若葉だけではなかった。
「…健太、だよな?」
動揺を堪え、言葉を震わせながら名前を呼んだのは琢磨くんだ。
…健太さん。
それが誰なのか、琢磨くんとどういう関係なのか、答えにすぐに辿り着いた。
琢磨くんと小学生の頃からの友達で、小学6年生の時にカブトムシの件を最後に、突然引っ越したという男の子だ。
そして琢磨くんがカミナリを見ると、そのショックを思いだし、耳が聞こえなくなるきっかけとなった人。
健太さんを知っていたという、思いもよらない琢磨くんとの共通点に、頭で理解は出来ても、心はそう上手く処理してくれない。ただただ目を開けていることで精一杯だ。