crocus
「琢磨…、久しぶり」
健太さんはさほど驚いた様子もなく、ぎこちない笑顔をして片手を上げた。そして、パッと真剣な表情に切り替えると、先生を擁護した理由を話し出した。
「…僕は父、鮫島…いえ、大島豊の実の息子です。小学6年の夏休みが終わる頃、父は僕を連れて、菜緒子さんと結婚し、大島家に婿入りしました。…だから僕自身も大島健太になりました」
「引っ越したのは、父親が再婚するからだったのかよ?」
健太さんは、琢磨くんの問いかけに小さく頷いた。
「僕が今から、父に代わって全てのことをお話しします」
「健太、いい加減にしないかっ!今さら…」
「今さらなんかじゃない!…父さんが身勝手な振る舞いをしたせいで、今でもここにいる皆さんが苦しんでいるはずなんです!」
鮫島さんは、健太さんの言葉を受けて爪をギリッと噛んだ。そして、ツカツカと靴音を荒く鳴らし、椅子に勢いよく腰かけた。
それをきっかけに、健太さんは順を追って話し出した。
「まず橘さん。橘さんに教わった酢豚を菜緒子さんは、転校したばかりで友達がいない僕を励ますために作ってくれていました。本当に…嫌って言うほど何度も作ってくれて…、でも本当に作ってる姿は楽しそうでした」
橘さんのお父さんに抱きついたのは、そう指示されていたと分かって、じゃあ酢豚を食べたのは誰かと思っていたけれど…、そっか健太さんにだったんだ。それも純粋な思いで先生は作っていたんだ。