crocus

健太さんは一度、鮫島さんの背中を見てから、重たい口調で話した。

「それを聞いた父さんは、誠吾くんのお母さんに『息子さんの能力をぜひたくさんの人のために発揮させるべきです』って…つまり金儲けの道具にする算段で話を持ちかけたんだ。もちろん、お母さんはすぐに断っていたよ」

前に翔さんと、祥さんのことを教えてくれたときに、確かにお母さんの様子がおかしかったことも聞いていた。

そうすると…これまでの鮫島さんの行動から察するに…

「じゃあ…誠吾の能力を中学校の生徒に広めたのは、鮫島のおっさんだったってことかよ!?」

琢磨くんは苛立ちを露にし、今にも鮫島さんに食って掛かりそうだ。そんな琢磨くんの背中をポンポンと叩いて諭したのは、誠吾くんだ。

「琢磨、ありがとう。でも僕…健太くんがずっと後悔してくれてたこと知って、怒る気にはなれないよ。それに今では知られたことで、翔と祥の思いを救えたんだし。結果オーライだよ!ねっ?」

屈託のない笑顔で琢磨くんに言った誠吾くんは、頬を赤らめて言葉を続けた。

「それに…僕が僕自身を好きでいなきゃ、泣いちゃう女の子もいるしねっ?」

そう言うと誠吾くんは、若葉に向かって上手にウインクした。

「はい!」

過去にめげない姿もそうだけど…誠吾くんに思いがちゃんと伝わっていたこと、いつも危なげだった誠吾くんが自分を慈しんでくれていることが、若葉は何より嬉しかった。


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