crocus
いつものように若葉の頭を撫でたオーナーさんは、鮫島さんに向かって真っ直ぐ、そしてゆっくり歩きながら、全ての真実を話してくれた。
「私は訳あって16歳の時に水瀬ご夫妻に拾われ、少しの間住み込み従業員として働いていました。その時は、まだ若葉ちゃんが4、5歳だったから覚えてなくても無理ないわ……──
水瀬悠一さんと、実家が雪村財閥の娘だった千春さんは駆け落ちも同然の結婚だったようだけれど、愛娘も生まれてすごく幸せそうだった。
私がなんとか合格した大学へ通うようになる頃は、私自身は実家に戻っていたけど、バイトとして働かせてもらっていたの。
それからしばらくして私が海外留学している時に水瀬夫妻は若葉ちゃんを残して交通事故で亡くなったわ。
…私がそれを知ったのは、帰国してからだった。
知らせを受けてから数日後に、建物だけが残った花屋で立ち尽くしいるとね、隣に住んでいたお婆さんから、私宛てだという封筒を受け取ったのよ。送り主は悠一さんだった。
その封筒の中には一冊のノートが入っていたわ。それも交換ノートがね。
そこには悠一さんと……健太くんのやり取りが書かれていたわ。