crocus

オーナーさんは健太くんの元へ近寄ると、ぐりぐりと健太くんの頭を撫でた。

「13才になっていた健太くんの元へすぐに確認へ行ったわ。…ね?」

「はい…っ、来てくれました。そこで父さんのしたことを詳しく話しました」

健太くんは切羽詰まった声で小刻みに何度も何度も頷いた。

「……そこには何が、書いてあったんですか?」

聞いてはいけないことかもしれない。でも、お父さんが生きていたカケラはどんなことでも、やっぱり知りたかった。

「あとは僕から話します。…僕は小学5年生くらいの頃から、悠一さんの花屋に通って相談をしていました。たぶん、若葉ちゃんは小学1年生になったばっかりだったかな…」

やっぱり健太さんは、若葉が知る健太さんだった。

"若葉ちゃん"と呼んでくれた瞬間、記憶の蓋が開かれ、健太さんや両親と過ごした思い出が鮮明に一気に溢れ出した。

「いつしか悠一さんが交換ノートをしようって提案してくれて、僕は誰にも相談出来ないことをたくさん殴り書いた。主に…父さんのことを…──

父さんはその頃から、人の恨みを買うような危ない取り引きをしていることを子供ながらに知っていたんだ。

小学5年生の終わり頃には毎晩電話で、いろんな計画の話を声高々にしていた。きっとその相手は菜緒子さんだったと思う。

何度も僕は息を潜めて、薄く開いた扉から聞き耳を立てていたんだ。

まずは子供の気持ちを利用して会社を都合よく辞めようとしていたこと。

次は社長の息子のために将来有望なサッカー選手を陥れようとしていたこと。

その次は社長の息子がカブトムシを欲しがっているから、僕に奪うように指示しようとしていたこと。

再婚をきっかけに転校した後には、僕を私立中学に首席で入れたいがために菜緒子さんを利用して、どこかの学校の男の子を傷つけようとしていたこと。

僕はそれを悠一さんに言うことで、やりきれない思いを吐き出していた。僕は子供で意気地なしで…父さんを止めることが出来なかったから…」


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