crocus
そのために協力を鮫島さんと健太さんに協力を求めると、快く了承してくれた。もちろん罪悪感もあったからだと思う。けれど2人のその弱味すら利用してしまっても、どうしてもどうしてもオーナーさんが必要なのだ。
「君は……どこかで……」
お爺様は覚えていたのか、訝しげな表情でオーナーさんを睨みつけた。するとオーナーさんは見たこともない真剣な眼差しをしたまま深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、会長。いつか若葉ちゃんをお返ししなければならない日が来ることを承知しながらも、私の店を手伝ってもらっていました」
「10年前も、自分が育てるから会わせてくれと、何回もしつこく言って来ていたな」
お爺様の言葉に若葉はオーナーの背中を見た。
オーナーが?そんなことを?
若葉が思うよりも遥かに深く想われていた。
それもずっと、ずっと前から。
涙腺がぶわぶわと緩みなりそうになるのを、歯を食いしばって堪える。
今だけは、泣いてはいけない。
「私は悠一と千春さんの友人です」
静かに見守っていた鮫島さんが凛々しく堂々と発言した。それに続いた健太さんも。
「私も父に連れられ、悠一さんと千春さんによくしてもらっていました」
そうして、2人はとくとくと両親と過ごしていたときの話や、亡くなる直前の話をお爺様に向かって話してくれた。そこまでは頼んでいなかったので、予想外の展開に若葉は戸惑った。
お爺様を前にして両親の話をすることは、あの日と状況が違いすぎる。
お父さんを恨み、お母さんの死を今も悲しみ続けるお爺様にとっては、その話は酷過ぎて、その後のお爺様の反応が怖い。
守りきれるか分からない。
ただオーナーさんのしてくれたことを、お爺様に話し、お父さんを見る目が少しでも変わってくれたらと思っていただけだった。
オーナーさんはお父さんの意思を引き継いで、5人の人間の心を守っていてくれたことをお爺様に知って欲しかっただけだったのに。