crocus
その日の夜、すっかり懐いた若葉ちゃんの寝顔を抱き締めたまま、伊織は自分の話をした。
出会ったばかりだというのに、どうしてか信じられる2人の大人を前に、言葉を何度もつまらせ、時には自分の中で整理しながら、他人に初めて打ち明けた。
「俺…自分のことを『俺』っていうの違和感があるんです」
「どちらかというと女っぽいことに興味があって、綺麗で可愛いものとか、化粧も洋服も憧れがあって…」
「でも両親は男は青色、電車、サッカー、女は赤、お人形、ピアノって枠決めしている人達だから…ずっと押さえ込んで、わざと悪ぶって、反抗して…
両親が理想とする男の子を演じてきたんです。そうしたらいつの間にか…自分って何だろうって分かんなくなっちゃって…、自分のことなのに自分の気持ちが分かんなくて…
それで今日も回りに八つ当たりして、店の花を台無しにしちゃって…」
2人は余計な相槌を打つことも、言葉を挟むこともせずに、ただじっと伊織を見つめていてくれた。
テーブルに乗る3つのホットミルクから湯気が見えなくなった頃には、心がうんと軽くなっていた。
「……そうか。今までよく頑張ってきたな。確かに人や物に当たるのはよくないけど、今そうして反省している気持ちが一番大事だ。君はとても素直で優しい子なんだね」
「えぇ、それに人見知りの若葉がこんなに心を開いているんですもの。きっと若葉には見た目や性別関係なく、伊織くんの綺麗な心が見えているのね」
自分を肯定してもらえたのは、初めてのことだった。間違っていない、心が綺麗だと言われて、本当に救われる思いがした。優しさに触れて2人の方がよっぽど綺麗だと思った。
「よし、決めた。伊織くん。今日から君は住み込み従業員として働いてもらいます!」
「え?」
「まさか、倒した花のこと忘れてないよねぇ~?」
「それは……」
「ふふっ、賑やかになりそうね」
有無を言わさず、進められていく話に戸惑いと、ほんの少しの嬉しさが入り交じる。
このまま明日になれば他人同士に戻ることが、寂しいと思っていたことは確かだったから。