crocus
「なんだと?」
「私からもお願いします。悠一と千春の花屋があったあの土地の権利をお爺様が所持していることを知っています。そうしたのは、いずれ…若葉ちゃんに譲るためではないんですか?」
「えっ?」
鮫島さんの言葉に驚き、素直に疑問が口から漏れた。
「……あんた方には関係ない。もう用はないんだろう。行くぞ、若葉」
お爺様に力強く腕を捕まれ、扉へ引きずられそうになる。足を踏ん張って抵抗していると、オーナーさんが腕を掴むお爺様の手を離してくれた。
「ちゃんとお爺様の本当の想いを、若葉ちゃんに伝えてあげてください。お願いします!!」
「お願いします!!!」
オーナーさんが頭を下げると、続けて聞こえた重なりあったいくつもの声。
それは秘書室の奥の扉が開くと共に聞こえた。
「あんた達…、なんでここに…」
呆気に取られているオーナーさんと、お爺様。目線の先にはクロッカスの5人がいた。
オーナーさんの今までの正直な思いを聞くために、始めからずっと隣の部屋で聞き耳をたてていたのだ。
それを提案したのは紛れもなく若葉だった。けれど、このタイミングで出てくる手筈ではなかった故に、若葉も純粋に驚いた。
「俺達、若葉ちゃんにスゲー救われたんです。だから今度は俺達が助けたい。若葉ちゃんの望みを叶えてあげたいんです。お願いします!若葉ちゃんの夢を叶えてあげてください!」
大声で懇願してくれる恭平さん。再び腰を深く曲げると、他の4人も気持ちは1つかのように揃って頭を下げた。
「みなさん……」
自分のためにここまでしてくれる人達に背中を押された。怖かったお爺様だけれど、ここで若葉は黙って見ているわけにはいかない。
「お爺様、お願いします。…私は絶対に……絶対にお爺様より早くに死んだりしないからっ!」
言葉に出来なかった分の想いは、涙と一緒になって溶けて溢れていく。
永遠のように思える時間が流れるけれど、届け、届けと目を固く瞑り必死で願った。
「若葉」
お爺様に名前を呼ばれて、ゆっくりと頭を上げていく。そろりそろりとお爺様と目を合わせると、
「えっ…」
と自然に声が漏れた。