crocus
「…喜んでいるところすまない。花屋を経営したいのなら、条件が2つある」
再び口を開いたお爺様の言葉に、喜びに湧く空気がしゃぼん玉が割れるように一瞬で消え、それは幻だったような雰囲気に包まれた。
「条件……ですか?」
「あぁ。1つは実際に2年間どこかの花屋で働きなさい。そこで経営や流通の流れを学び、実際の苦労を知ること。それでも続けたいと思ったのならば、そこで正式に応援しよう」
それを受けて若葉は間髪いれずに答えた。
「分かりました」
当然のことだった。
花屋の表面上だけの華やかさだけしか知らないわけではない。
けれど利益を生み出し、どんな支出を考えればいいのかお店として稼動させる基本的なことも分からないし、お客様のニーズの応え方も無知のまま。
冷静に提示したお爺様に試されている以前に、自分自身に負けられない。
「2つ目は何ですか?」
闘志の炎が体内で湧き起こってきて、どんとこいと言わんばかりに熱い眼差しでお爺様の2つ目の条件を尋ねた。
ところが、お爺様はわずかに頬を蒸気させ始めた。
「どうしたんですか?お爺様」
「…それ、だ」
「えっ?」
顔を横に背け、視線だけでそれというものを若葉に向けて示した。
でもお爺様の意図がはっきり掴めない。
そんなことを表情で表していると、お爺様は観念したように一度俯き、咳払いをして仕切りなおした。
「敬語とお爺様と呼ぶのは……やめなさい。……そうだな……おじいちゃん、とか……どうだ?」
「……おじいちゃん?」
そういうと、にわかにおじいちゃんの頬が緩んだ気がした。
その様子を傍観していた橘さんがポツリと呟いた。
「なんだただの孫バカじゃない」
「バッ…!」
慌てて橘さんの口を塞ぐ恭平さんと琢磨くん。
それでも本人は至って冷静で、あっけらかんとしていた。