crocus
全員がほぼ同時に振り向くと、視線が集まった先にはバツが悪そうにしているオーナーさんがいた。
「何よ…」
拗ねた子供のように口を尖らせ、視線を右往左往に泳がせているオーナーさん。その仕草は女である若葉よりも、可愛らしく様になっているんじゃないかと、思わずドキッとしてしまった。
だが、そうだったのは若葉だけだったようで、堰を切ったように後方から非難の声が飛び交った。
「何よじゃねーよ!」
「可愛くねーから!」
「三十路」
「まだ29!」
恵介さんの言葉にすかさず地響く男声で反論したオーナーさんはいつも通りのオーナーさんだった。
「ふふふっ!」
そのことに心の底から安堵し、嬉しさが込み上げてきて、どうしても堪えきれなかった笑い声が口の端から漏れてしまった。
すると次々と花が咲くようにみんなも笑ってくれた。
言葉はいらなかった。
オーナーさんがどう思っていようとも、この空気感そのものがクロッカスの仲間との絆の答えだった。
お父さんとお母さんは、オーナーさんや健太さん鮫島さんのために動いていた。オーナーさんはそんな両親の想いを引き継ぎ、クロッカスのため、鮫島さん親子のため、若葉のためにたった一人で奔走し続けた。
その何より尊い思いやりの心に、咎められような部分はどこにもないことを、初めて出会ったときよりも更に心から笑っているみんなの明るさが証明していた。