crocus
「カメラ…カメラ…」
全部で小さな引き出しが6つ、大きな引き出しが3つある棚。それを1つづつ開いて、目的のものを探してみるがなかなか見つからない。
「あった?」
ふいに後ろから声をかけられ、ビクッとしながら振り向けば不敵な笑みを浮かべる橘さんがいた。ドキドキと鼓動がうるさくなって、それとなく視線を外しながら答えた。
「いいえ…一通り見たんですけど……どこにも……」
「だろうね?僕が持ってるから」
「へ?」
思わぬ返答に驚いて橘さんの方へ再び振り向けば、カメラを胸ポケットからちらりと覗かせていた。
「きみがボーっとしているところとか、朝ごはんのみそ汁を味見してやけどしたところとか…このデジカメで撮っちゃった!」
「えっ!?やめて下さい!消してください!」
慌てて立ち上がり橘さんの胸ポケット目掛けて手を伸ばすも、その途中であっさりと大きな手に手首を捕らえられてしまった。
ハッと正気に戻ると、目の前には妖しい瞳を揺らめかせた橘さんがジリジリと顔を近づけてきていた。
「あのっ、たちばっ…さん?」
「顔、真っ赤だね。いいから、じっとして」
よくない!全然よくないです。胸中ではそう思うのに、橘さんの瞳に魅せられ抗えない。
「~~~~っ」
「ほら、舌。見せて?」
「えっ?した?」
わけが分からないことを表情で訴えれば、橘さんがベーっと舌を覗かせた。顎をくいっと動かし、若葉に「真似して」と催促した。
若葉は状況に戸惑いながらも、目をきつく瞑りながら半ばやけになって舌を少しだけ外気に触れさせた。