crocus


桐谷さんにしっかり聞こえるように「いただきます」と言ってから、紙の栓を外し、口づけた。

「ああっ!ダメダメ!飲み方が全然なってねぇ!な、恭平!」

「おうよ!少しリッチ感が味わえる、この瓶という入れ物に対して、そんな飲み方じゃもったいねぇよ!」

「は、はぁ…」

立ち上がり熱弁する琢磨くんと上田さんの迫力に圧倒されつつ返事をすると、上田さんが木材の長椅子に足を置き、例のグッドサインをしながら流暢に喋りだした。

「高校サッカーでは、天駆ける青龍と言われたこの恭平さんが牛乳瓶の飲み方をレクチャーしてせんじよう。なお、これは孫の代まで伝えるように!」

「よっ!待ってました!クロッカスの王子様っ!」

調子を仰ぐ琢磨くんに、まぁまぁまぁと、その場を静める仕草をする上田さん。パチパチと手を叩いて笑っている上矢さんの右斜めでは、退屈そうに橘さんがふわっと欠伸をし、そのさらに右隣では桐谷さんが未だ、「本当に間違えたんだ」と呟きながら顔を赤く染めていた。

若葉はその光景を見て、平和だなぁと、思わず笑みをクスクスと零せる幸せを噛み締め、白熱する『牛乳瓶の飲み方講座』を真剣に聞き入った。


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