crocus

熱血指導のおかげで講座を無事合格し、銭湯を後にしたのは夜の9時すぎ。

まばらな外灯の下、冷えた風が頬に当たるけれど、入浴後の火照った肌には心地いい。若葉はその風をすぅーっと吸い込み体内に取り込んだ。

植え込みの木々や、前を歩いている上矢さんの髪のシャンプーの香りを嗅覚が感じ取った。

「そういえば……言い忘れていたが雪村さん。毎週水曜日が定休日だ」

「そうなんですね……。水曜日が定休日」

「あははっ!それってカナヅチのオーナーが水に流れるーって理由だったよなー?」

若葉が確かめるように呟くと、琢磨くんが理由を笑いながら話した。すると続けて上矢さんが言う。

「海とか水族館とか大量の水を見るのもダメらしいよー」

「へぇ!だから銭湯にも来なかったんですね?」

「いや……、まぁ、それ以前にオーナーがどっちに入るか問題つーかな……」

気まずそうに遠くを見て話す上田さんの言葉に、男湯か女湯かの問題だと理解した若葉は、それ以上は何も言えずに、苦笑いしながら失言を反省した。

帰り道では、さらにいろいろとオーナーさんに関しての情報や噂だったりをみんなが教えてくれた。

オーナーさんのことを思い出しながら話すみんなの表情や声は、なんだかんだ言ってオーナーさんのことを慕っていることを証明していた。



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