crocus
「おはようございます」
「 はよ」
「おはよー!若葉ちゃーん!見てみてー。これ琢磨が焦がしちゃったんだよー。若葉ちゃんに嫌がらせだね~、酷いね~、Sだね~、サドスティックだね~」
すかさず「俺じゃねーっての!」と、小さく呟いた琢磨くんが上矢さんのわき腹をゴスッと肘打ちした。
皿の上には6匹の少しだけ焦げたの魚さん達がいた。
ふいに自分の分も人数分に含んでもらっているのだと思うと、きゅっと喉の奥が締まった。
我ながら、最近やたら感動することが多いと思う。でも嬉しいと思えたことは、嬉しいのだから仕方がない。
「これくらいなら大丈夫ですよ!焦げてしまった部分を少し剥がして、身をほぐした後、ご飯に入れて混ぜ込みご飯にしちゃいましょう。少しお醤油を垂らせばきっとおいしいですよ」
「うわぁ~なにそれ。すっげうまそう」
「よかったねー、琢磨。かなめんに殺されなくて」
「だからぁー!元はと言えばお前がだなぁー……」
再び言い争いを始めてしまった2人を尻目に、手を洗って朝食のお手伝いを始めた。
バタバタしながらもなんとか朝食を作り終わり、時間を見れば、みんなで揃って食べるという8時には余裕で間に合ったようで安心した。
そして深々と頭を下げた琢磨くんと上矢さんにお礼を言われる。
「いやぁ~ホント助かった!ありがとな?ま、今日からの仕事は、俺がバッチシ、フォローするからさ、どんどん失敗していいからな」
「ぷくく!今でもオーダー間違う琢磨がフォローだってー。若葉ちゃん早く一人前になってね?琢磨が皿を全滅させる前に!」
若葉の両手をハシッと握る上矢さんの真顔でのお願いに、若葉もそっと握り返し「がんばります!」とオーバー気味に意気込んでみせると、がっかりしたように琢磨くんが項垂れた。
「なんだよ、若葉まで……」
3人で笑い合っていれば、ゾロゾロと桐谷さん達がリビングへやってきた。
今日はお仕事初日。
幸先のいい感じの朝に、若葉は足取りも軽く炊飯器に向かって歩き出した。