crocus
不安を覚えつつ開店準備をしていると、突然入り口のドアが勢いよく開いた。リリリンと鳴る鈴の音を打ち消すくらいに、入ってきた人物に向かって元気な挨拶が飛びかった。
「おはようございます!オーナーさん」
「おはよ。若葉ちゃんと……愚民共」
最後は低い声で言ったかと思えば、すぐにひそひそと桐谷さんと相談を始めた。内容は聞かずとも、オーナーさんの真剣な表情を見れば大事な話なのだろうと分かる。
そんな話が出来る桐谷さんは、やはり信頼されているんだなぁ……。
そんなことを思いながら若葉は話が終わるのを待つ。
「じゃそういうことで。あっ、ちょーっといいー?若葉ちゃん」
「はい!ちょうど私もお尋ねしたいことが……」
「制服でしょ?はーい、これ!すっごく悩んだけれど、やっぱり王道スタイルでいいかなって」
渡された紙袋は両端をテープで止められていて中身は確認出来なかった。
「ありがとうございます!これ着てもいいんですか?」
「ええ、それは若葉ちゃんのものよ。飽きたら別のパターン持ってくるから!」
「別のパターン?」
……制服なのに?
不思議に思ったけれど、なんとも楽しそうなオーナーさんは無邪気そのもので、若葉は気にしないことにした。
何はともあれクロッカスの一員としてグッと近づいたように思えて、大事に大事にその制服が入った紙袋をクシャっと抱きしめた。