crocus
「天使さん!!」
感想を待っていた若葉に向かって、上矢さんが今までにない程の勢いでぎゅっと抱きついてきた。
「かわいい、かわいい…」と言いながら、頬を摺り寄せてくる様は子供のようで抱きしめ返したくなったが、相手は22歳児の上矢さんだ。
宙に両腕を浮かせたまま、どうしたものかと戸惑っていると、凄まじい速さで琢磨くんが上矢さんの頭を叩いた。
「変態ばかっ!抱きつくな!」
「きゅ~」
そう言いながらズルズルと落ちていく上矢さん。胸の部分のところで、顔を埋めた気がするのは、何かの勘違いだろうと、さほど気にしていなければ、「ちっ」っと何人分かの舌打ちが各方向から聞こえた…気がした。
「若葉、ちゃん、ホント、かわいい!やっぱり、これに、して、よかったわ!なんだか、ハマっ、ちゃい、そう!」
笑顔をキープしたままのオーナーさんは、上矢さんの背骨をゴリッ、グキッ、バキッと踏みつけながら言葉を爽やかに発した。
「あ、ありがとうございます。まだ慣れないんですが…クロッカスの一員としてがんばります!」
明るい口調で言いながら頭をぶんっと下げてから、安心したように一息つけば、橘さんとふいに視線が合うも、すぐに逸らされてしまった。
気まずさにどぎまぎしていると、カウンターから桐谷さんの話し声が聞こえた。
「恭平。お前が拭いているのはカップではなく、俺の手なのだが…」
桐谷さんは困惑する声は出すものの、その目は若干呆れたように下を向いている。
「うぇ?は?あ…」
そして指摘された恭平さんは、すぐに手を離すどころか、さらにキュッキュッと桐谷さんの手を拭き続ける。
「ち、ちげーし!これはお前の手が汗かいてたからだな…。ツヤッツヤに拭いてやったんだよ!てゆーかさ、なんか要…手熱くね?手あっつ!!あ、お前、若葉ちゃんのメイド服に萌えたんだな~!このやろう~、可愛いとこあんじゃねーかよぅ!ふふぅ~」
「恭平」
「恭平…」
「恭平さん…」
桐谷さんをからかっている恭平さんに向かって、テクテクと歩く上矢さんは、ティッシュ箱を渡してあげた。
「恭平、鼻血」