crocus
「お花屋さんを思い出しちゃった…」
ふと皿を見ると、ゴマプリンに水滴が乗っている。そして肌が少し痒くなって、頬を触ると濡れている感覚に、自分が泣いていることにやっと気づいた。
バレていないかオーナーさんを見上げると、本当に優しい表情でこちらを見つめていた。驚いた若葉は、わたわたと紙ナプキンで涙を拭う。
「へへへっ…おいしくて…ビックリ涙が…」
「…作り手にとって最高の褒め言葉ね。感想待ってるあのバカに手ぇ振ってあげてくれる?あの期待の目、目障り、うっとおしい」
冷めた言葉を並べてもオーナーの言い方は、愛情の温かさを隠しきれていなかった。
あのバカを指している…上矢さんを見れば、気づかれてないと思っているのだろうか、チラチラと何度も皿やナイフを拭きながらこちらを見ていた。
若葉がヒラヒラと手を振って、あの『上田さんポーズ』を拝借し、出来る限りの笑顔でおいしかったことを伝えられるよう努力してみた。
すると、ちゃんと伝わったようで上矢さんが両手を広げて万歳してくれた。その後ろにいた上田さんに当たってしまい怒られてしまったのだけれど。
その様子をクスクスと笑っていれば、スッと温かいものが口角に触れた気がした。
横を見ると、目の前には長い人さし指。それは持ち主の唇から覗く舌にペロリと舐められた。
その動作の意味を理解した、若葉は皿をひざの上に置いた後、両手で口を押さえた。口元にプリンが付いてたようなのだ。
「甘ぇ…」
「琢磨くん…。付いてたなら教えてくれたらよかったのに…」
いつの間、隣に来ていたのだろうと気になったが、それどころではない。
恥ずかしさから俯いて、文句を言えば、今度は琢磨くんが耳までカァっと赤くなった。
「わ、わりぃ!いつも誠吾がつけてるから、ついクセで…」
「そうなんだ!う、ううん!いいの、ごめんね?ありが、と…」