crocus

よしっと覚悟を決め、胸にある一番伝えたいことを息と共に吐き出した。

「はじめまして、雪村若葉です。私の両親は10年前に事故で亡くなりました。両親は花屋さんを経営していて、手伝いをしながら、仲の良い2人を見ることが私の楽しみでした。

笑顔で帰るお客さんに花だけでなく幸せも届けているように思えて、すごく誇らしかったのを覚えています。

そして、先日初めてこのクロッカスに足を踏み入れたときに、たくさんの花に囲まれていた昔と同じ、温かい香りに包まれてすごくすごく安らぎました」

そっと目を閉じれば、あのどしゃぶりの雨の日の出会いが、もうすでに懐かしい……。それでも光景は鮮明に浮かんでくる。

クロッカスでの目標が心に決まって、目を開くと景色が鮮やかに色づき始めた。

「私の父はプロポーズの時に、ある花と花言葉を一緒に贈ったそうです。花言葉は「私を信じて」。花は、このお店と同じ名前のクロッカスです。

だから私もみなさんに信頼してもらえるような、温かく包めるような、そんな店員になりたいと思います。

そしてずっと夢だった花屋さんを開くための土壌をここで学んで、知識を肥やしていきたいと思います。これからよろしくお願いします!」

割れんばかりの拍手をくれたお客さんだけではなく、オーナーさんにも店員さん達にも想いが伝わるようにと頭を下げた。

そっと綺麗な涙を流していた上田さんに肩を抱かれながら、知っている懐かしい曲を一緒に歌うと、店内の空気は1つになり、今日一番の盛り上がりを見せた。


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