crocus
フォローする言葉をかけられず申し訳なく思っていると、上矢さんは何事もなかったかのように話した。
「若葉ちゃん、若葉ちゃん、僕は『誠吾くん』がいいなぁ」
「誠吾、くん?そう呼んでもいいんですか?」
「うん。ここの人達は、僕を『くん』付けで呼ぶ人いないから寂しいんだよね。僕『誠吾くん』っていわれると嬉しいんだ」
頬を薄く赤にポッと染めて、子犬のように呼ばれるのを待っている潤んだ瞳に応えたくなって、はっきりと届くように呼んでみた。
「誠吾くん……、ふふっ」
やはり改まると気恥ずかしい。
だけど本当に嬉しそうにぱぁっと目を輝かせる誠吾くんを見たら、早く定着するくらい呼びたいなぁ……なんて、年上の誠吾くんに対して母性本能をくすぐられた。
「ありがとぉ~!今日はよく眠れそうだよ~」
「ホントですか?それはよかったです。じゃあ……おやすみなさい、誠吾くん」
ヒラヒラと手を振り合って扉を閉じると、心がぽかぽかになっていることに気づき、それが心地よい眠気に変わるのはすぐだった。
明日が来ることが楽しみだと思えることが布団の中をさらに温めてくれた、そんな夜。