crocus
「あんた達……食べたら出発よ。琢磨?若葉ちゃん頼んだわよ?」
「……分かってる」
そう返事をした琢磨くんと目が合うも、瞳をゆらゆらと揺らしながら視線を逸らされてしまった。
そう今日の朝からそうだった。琢磨くんのいつもの元気がない。
いつものなんて言ってもほんの数日しか一緒にいないし、分かったようにいるのは自意識過剰かもしれない。
それでも、心配だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オーナーさん達が話し合いに出向く姿を一人で見送った。
店内の窓から花壇を見下ろせば、アイビーゼラニウムの葉先から幾度も幾度も……まるで泣いているように雫が落ちた。
そのことが漠然とした不安をさらに煽ってきて、静かな店内が怖くなった。
ふと琢磨くんの様子が気になり、具合が悪いんじゃないかとか、何か手伝うことはないだろうかとか、部屋を訪ねるためのもっともらしい言い訳を考えながら2階へ続く階段を上がった。
……本当は寂しくなったなんて、こんな時に甘えようとする自分を隠したくて。
朝の様子を思い浮かべると自分の行動は無神経なように感じられたが、ふっと息を吐き勇気を出してコンコンと琢磨くんの部屋の扉をノックした。
が、しばらく待っても返事がない。
眠ってしまったのかもしれない。そんなことは容易に想像出来たけれど……少しほんの少し、この家に自分以外の誰かがいてくれていることを確かめたくて、ドアノブをゆっくり回して室内を覗いてみた。
……あっ、起きてる。