crocus
「琢磨……」
夏休み最後の日。魚屋の店番をしながら、ついに宿題に手をつけていた。琢磨が眉間に皺を寄せているところに、名前を呼ぶ小さな声が耳に届いた。
そちらの方に視線を向ければ、店先に裕人が立っていた。
「どしたー?宿題のことなら俺じゃ当てになんないぜ?」
「知ってるし。終わったし」
チッ、と無意識のうちに舌打ちしていた。
「じゃなくて!……健太のこと、なんだ……けど……」
健太の名前が出た瞬間、嫌な予感がして真剣に裕人を見据えた。
「今日の朝、健太のお父さんが……カブ狩りの高校生と話してるの見たんだ」
「は?」
「なんか……高校生が封筒みたいなの受け取ってて。親しげにしてたんだよ……」
「……お前は健太の父ちゃんがカブ狩りの首謀者だって言いてぇのかよ?」
「そうじゃない!そうじゃないよ……ただ健太が巻きこまれてないか心配なんだよ。あいつ、本当にしんどいことって一人で我慢するタイプだろ……?」
しんと静まり返る店内。父ちゃんがいたら「心気くせぇ面で店に立つな!」つって鉄拳制裁だろう。
ここであーだこーだ言ってても埒が明かない。今すべきことは、健太の無事を確認することだ。
「裕人、悪ぃ。店番頼んだ!あと宿題も!」
「は!?おい、ちょ!つか、しれっと押し付けんな!……ったく……走れバカタクマ!」
いい奴……!
背中を押した裕人の声援を、琢磨は目を瞑りながら噛み締めて、足をあげる活力に変えた。