crocus
風を斬りながら商店街を駆けぬけた。もう一体化していて、すっかり忘れていたけれど肩にマキオが乗っていた。それがなんだか心強かった。
川の近くまで走れば、河川敷に人影が見えた。それが健太だと分かると、ホッと胸を撫で下ろし健太の元へ駆け寄った。
「健太!」
「琢磨……」
「ここでお前なにしてんだよ……」
どこか不穏な空気を漂わす健太の目は、うつろで瞳に色を感じない。
「……マキオ、元気?」
「あ?あぁ……」
「触ってみてもいいかな……?」
「いいけど、お前苦手なんじゃ……」
そんな素振りを見せることなく、肩に乗るマキオを引き剥がした健太は急に走り出した。
止めていた自転車のかごの中には、緑色の虫カゴが入っていた。その中にマキオが入ると蓋が素早く閉まった。
「健太!?なにしてんだよ!どこ行くんだよ!」
健太はすごい形相で自転車のペダルを漕いで遠くに行ってしまった。
次第に小さくなるその背中に呟いた。
「俺……頼りねぇか?健太……」