にがいの。
当たり前、あたしが育ってきた場所と彼の育ってきた場所は違うんだから。
「な、これなんてゆうの?」
「…里芋の煮っ転がし」
「ふーん…、」
「……何よ」
「また作って。煮っ転がし。」
でも、彼の手はいつも温かくて。
あたしも女にしては珍しく冷え症なんかじゃなくって。
「…うん」
…だから、繋いだ手の温度は、一緒な気がした。
好きだった。
いつの間にか、持っているCDにロックの種類が増えて。
いつの間にか、格闘技選手の名前をいくつか言えるようになって。
いつの間にか、苦手だったビールも飲めるくらいになって。
いつの間にか、洋服ダンスにワンピースが三枚ほどしまわれて。
そしていつの間にか…あたしが作る卵焼きも、甘い味になった。
好きな人の色に染まってしまう自分がなんだか嫌で、それなのに少しくすぐったくて。彼の好きなものを好きと言った。言っていれば、本当に好きになっていけるような気がしていた。
多分あたしは、不安だったのかもしれない。
一緒なのは、手のひらの温度だけだったから。
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