にがいの。



ベッドに寝転んで、携帯を開く。

四角い形をかたどって、ポウとともるディスプレイの灯り。


さかのぼった受信メールボックス。


…彼からの最後のメールの日付は、もう二ヶ月も前のものだった。








『…ごめん』






─好きな子が、できた。








ごろりと寝返りをうち、携帯を閉じる。そしてそのまま瞳を閉じた。

出てきてほしいと願ってやまなかった夜には一度も出てきてくれなかったのに、今になって夢に見るのはどうしてだろう。現実に引き戻された時に、その違いに締め付けられる。


彼の声を正面から聞いたのは、もう随分昔のような気がした。




時計を見ると、いつの間に時間が立っていたのだろう、もうお昼時だった。

いい加減、活動しなければ。一日中ベッドにいるわけにはいかない。

手前に並んだジーンズを引っ張り出して、足を通す。一度大きく背伸びをして、キッチンに向かった。




熱したフライパンに、まんべんなく油をひく。ジュワ、と焼け付くような音と共に白い湯気が上る。

久しぶりに、砂糖を入れずに卵焼きを作ってみることにした。


…あたしの、昔の作り方。


つけっぱなしのテレビからは、ひっきりなしの笑い声。寝起きの空っぽ頭には、やけにそれが響く。

出来上がった熱々の卵は、湯気が立ち上らせて小さな皿に収まっていた。


口に運ぶ前に、二回吹きかけた息。


「あっつ…」


…最近、ジーンズしかはいてないな。

似合わないワンピースは捨てれずに、タンスの奧底に詰め込んだまま。


口の中で、柔らかい卵をゆっくりと何度も噛み締める。


…あたしの舌は、皮肉にも甘い味を覚えてしまっていて。






今日の卵焼きはしょっぱくて、


しょっぱすぎて。








…ちょっと、泣けた。





【end.】
(2007.8.27)
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