にがいの。
「綾香、元気ない?」
器用な長い指が、頬に触れる。
その先に目線を流すと、整った顔立ちがこちらを向いて微笑んでいた。
「…ううん、そんなことないよ」
「そう?ならいいけど…俺もシャワー浴びてくるから、待ってて」
目の前の彼はあたしの頬に軽くキスをして、ゆったりその場から去っていく。
それを見送りながら、小さく息をついた。
ホテルの窓から見える、イルミネーションがやけに眩しい。
…どうしてみんなこうもクリスマスを盛大に祝うんだろう。
かく言うあたしも、最近できた恋人とその一夜を盛大にすごす一人なのだけれど。
─昼間。
車の助手席から覗いた景色に、あいつを見た。
大通りを、小柄な女の子と二人で歩いてた。
…幸せそうに、笑いながら。
小さく吐いたため息に、窓が曇ってイルミネーションを濁らせる。
滲んだ景色はそのままに、後ろのベッドへと倒れ込んだ。
『好きだよ』