ありときりぎりす
雪が降りました。

あたり一面の純白銀。

ありは巣穴の入り口が塞がれて、出られなくなってしまいました。

時々滴り落ちてくる雪解け水に肝を冷やしながら、ひたすらに春を待ちます。

きりぎりすはきらめく雪に心を踊らせます。

フカフカした冷たいクッションに、身体を横たえます。


もう、動けないのです。


草は全て枯れて、何日も何も食べていません。

寒さは身体を硬直させます。

じきに、自分は死ぬ。

悟った、というよりは、始めから知っていた気がしました。

みんな、いずれ死ぬ。

今日は自分の番。

ひらり、ひらりと降り注ぐ雪を眺めながら、きりぎりすは呟きました。


「あぁ、楽しかった。」


複眼に、雪がつき、視界が白く塞がれました。

いっぱい遊んだ。

いっぱい食べた。

たくさんのものを見て、心に刻んだ。

「満足、満足。」

もう、なにも見えません。
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