アイ・ドール

 が、同時にカネを払うと言った私を、天使でも見る様な眼差しで、アリスの呪縛から解放された歓びを全身から滲ませた川井出と多田坂――。



「なる程――」


 仮に二人が最初から示し合わせて、カネという果実を得られるならば、アリスによる「凌辱」も甘んじて耐えていたのか。一応、店長として、保安員としての「筋」は通している。



「くっ――」

 下唇の端を噛んだ――。


「ココア冷めちゃったね」

 アリスがくすりと笑いながら言った。語気を強め、呆れ笑っていた表情は消えている。


「そんな事はいいの――それよりアリス、聞いて――」


「うん――」


 何を言われるのかを、私の声色、雰囲気から理解し、かしこまって身構えるアリス――。



「復讐――そう、復讐の為に万引きなんて行為は絶対にしてはいけないわ。何の解決にもならないし、アリスの心が汚れてゆくだけよ――」



「う、うん――」


「ヴィーラヴやアリスの商品が万引きされたらどう思う――復讐だなんて言われてアリスは納得する。しないわよね――」


 小さく頷くアリス。



「商品が正しく売れて、生きてゆける――」

< 124 / 410 >

この作品をシェア

pagetop