アイ・ドール

 あえて生身の姿を見せず、興味を煽る――社長も古典的だけれど効果的と言っていたが、ここが限界点だった――。



 結果、シングルの発売日――しかし実際にはその前日に商品は店頭に並んでいる――業界の慣習だ。もう、周知の事実だから前日にして、初回完全限定生産版が姿を消す――。


 稀に事実を知らない「真面目」な消費者からの苦情が、「発売日」にショップやドロシーエンタープライズに殺到していた――。





 タワー内のレッスンスタジオで汗を流すヴィーラヴ――。皆、ファン達と交流を持てる事を楽しみにしており、士気も高い。


 コレオグラファーが声をかけながら曲に乗せて振りをつけてゆく。今日は終日、ダンスレッスンが組まれている。彼女達も、振りを体に叩き込む様にリズムを刻み、鏡に映る自分の姿を確認しながら、より複雑になってゆく振りと、難解なフォーメーションの動作を習得してゆく――。



 昼前の小休憩に入った。


 皆、屈み込み、呼吸を整えている――額から全身から、汗が床に滴り落ちる。


 万希子さんは倒れ、その勢いで束ねていた美しく長い髪が解け、あらぬ方向へと乱れている――。

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