アイ・ドール

 鏡の前ではしゃぎ、踊っていた四人が流花達と合流し、別の楽曲のフォーメーションを確認し合っている。


 六人の姿を、会話を交わしながら微笑ましく見守る詩織と万希子さん。

 私などが到底、踊る事など不可能なダンスと複雑怪奇なフォーメーション。羨望と称賛を得る者の裏側には、様々な苦闘や涙がある。「当たり前の事――」社長はそう切り捨てた。殊更、「裏側」を強調し、共感と支持を得る手法など、「表側」に自信が持てない証拠なのだと言った。


 アイドルと「彼ら」は、同一線上であってはならない――常に遥か上の存在であり続け、偶像、崇拝の対象として輝きを放つ――社長の持論だった。


 確かに、過去においては異なる定義を掲げ、共感と支持を得る事も容易だったのかもしれない。

 しかし、今の更に辛い状況下では、ほぼ完成されたアイドルとしてのヴィーラヴが必要だった――手っ取り早く自分を癒してくれる存在として――。

 だからこそ、「彼ら」の要求は際限なく高まり、より一層の「進化」と「神化」を渇望する――。

 ヴィーラヴは、応えてゆかなければならない。私は、僅かでもその役に立っているのだろうか。

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