アイ・ドール

 さすがに疲れたのか、帰りの車内はいつもより静かだった。

 アリスは最後列の席で眠っている。隣に葵が座り、2列目の席に、流花とモコ、助手席に雪が乗る。


 帰り際に、いつもは詩織の車に乗るモコがこちらの車に乗り込み、流花の隣に座り、疲れた他の乗員に配慮した小声で、ダンスパートやフォーメーションの質問を、今も流花に浴びせている――。



 マンションが見え始めた――詩織の車はかなり先を走行しているのか、見えない。



「ちょっと何よっ――」

 車内にモコの怒った声が響く。


 いつもは流花の隣に座る葵が、モコが座るシートの背面を膝で強く小突いたらしい。思わぬ衝撃に、普段は穏和なモコも少し荒々しく声を上げた。


「んもぅ、モコッチばっかりずるいよ――いきなり飛び乗って流花ちゃんの隣に座って――――葵だって流花ちゃんに聞きたい事、いっぱいあるのにぃ――」

「だって、葵ちゃんはそうでなくても、いつも流花っちにべったりなんだから、ダンスレッスンの時ぐらいこっちに回してくれてもいいじゃん――」


 モコの言う通りだった――ここ最近、流花の隣にはいつも葵が寄り添っていた――。

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