アイ・ドール

 昼前の小休憩、昼食休憩、午後の2回の小休憩――タオルやドリンクを流花に差し出そうとする葵だったが、たちまち他のメンバーが流花を取り囲み、質問責めにする。一人、蚊帳の外の葵はその度に不満そうに頬を膨らませ、壁に凭れたり、少し離れた席で昼食を不貞腐れ気味になって食べていたり――可愛いさから遠く離れた表情に、何度か他の打ち合わせで外した私も、葵に声をかけられずにいた――。


「葵が流花ちゃんの隣に座ろうとしたのに、モコッチが急に割り込んでぇ――いつもはリーダーの車に乗るのにぃ――」

「だから、モコは聞きたい事があったから隣に座っただけ。んもぅ、それの何処がいけないの葵ちゃん――」

「喧嘩はやめて――――ごめんね、葵ちゃん――」

 辛そうな表情の流花が、仲裁を試みた。

 しかし、二人に流花の気持ちは通じず、言い争いを再開する。

 更に表情を曇らせた流花は仲裁を諦め、片肘を突いて車窓に耽る――。


 流花も、葵の視線や行動はわかっていた筈――ダンスのスキルのある自分が質問に答え、皆を牽引してゆかなければならない自負もあって、葵にばかり気持ちを向けられなくなっていたのだろう。

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