アイ・ドール

 ヴィーラヴという世界に漂わせておく為にも、異性という虫がついてはならない。故に、内部に問題を抱える分、対策も施しやすい――。



「葵も流花も、わかってくれて嬉しいわ――朝になったら、ちゃんとモコに謝って全てを話すのよ。それじゃぁ私は帰るわ――明日もダンスレッスンだから、もう休んで――おやすみなさい――」


 私も部屋へ帰り、熱いシャワーで「今日」を洗い流して明日に備えたかった――。





「帰っちゃぁ、だぁめぇっ――」


 席を立ち、帰ろうとした私に抱きつき、男に発する声とは異なる、身も心も溶けてなくなってしまいそうな煮詰まった甘い声で、葵が耳元で囁いた――さっきまで泣いていた弱々しさは消えていた――。



「マイマイも疲れたでしょ、今日はここに泊まって行きなよ――」


 流花が、葵とは反対側の耳元で言う。



「うふっ、心配しないでっ――何にもしないよぅ、ただぁ、一緒に添い寝してくれるだけでいいからぁ――」


 もっと心配させる様な、とろりとした甘く溶けた声で誘う葵――どれ程の戦略的声色が、葵には備わっているのか。


「本当に、心配しなくてもいいよ――」

< 146 / 410 >

この作品をシェア

pagetop