アイ・ドール

 帰りたくない――。


 ここに一緒にはいられない――この世界は、ひとときの休息の地――。


 ――――。



 別れの時が近づいている――暗示する様に、道が左右に分岐している。



 どちらかが、現実へと繋がる道――――少女は、何も語らず私の選択を待つ。

 何故かはわからない――私は右方向へと少し車を進めた。


 少女の手が、私の左手にそっと触れる――。

 少女の手は、温かい――ふんわりと左手から全身へと温もりが広がり、心の芯がぽかりと熱を帯びる。


 少女は、静かに首を振った――。



 左へ行くのね――。


 そう――――。


 少女が答える。

 少女を見た――自信と優しさと、別れの悲しさが混在する瞳で頷く――。


 ステアリングを左へと切り返し、車を進めた。


 別れの道――行く末は、現実の世界――――遥か先にトンネルが見える。

 私の、ずっとこの世界に身を委ねたいという想いを嘲笑う様に、不気味に口を開けている。

 回避する道は――ない。

 トンネルが迫る――ならばと、ブレーキペダルを踏む。しかし、車は減速しない。

 導かれている――。

< 174 / 410 >

この作品をシェア

pagetop