アイ・ドール
「今夜も夜景が綺麗だね――マイマイ――――」
葵が私にしなだれる――――いやらしい水分を湛えた二つの瞳で私を見上げる――。
ミネルヴァも、やればできるのだ――――翌日にはもう、アイドール達は、「普通」の状態に戻り、私を寂しがらせる事もなくなった。充電やデータ更新などの「工程」は、私達人間の睡眠と同義となり、今宵のアイドール達は、各々に寛ぎ、葵は私と広大な夜の海を眺める――――。
素晴らしい――何て素晴らしく、美しい時間なのだろう――。
一つの高層ビルの光に目が留まる。
こんな時間まで――。
社員とおぼしき人々が一心不乱にコンピュータと向き合い――別の階では、結論の出ない会議という徒労に身を捧げる者達が唄い、あるフロアでは憔悴し、自分しかいない空間でワークデスクに頭をもたげ、何処ともなく視線を泳がせている――。
必死に、外観をお洒落に煌びやかに着飾っても、その内部で行われている行為は、輝きや、華やかさとは遠くかけ離れたものだ。
そんな彼らの希望、欲、苦悩、魂を貪欲に吸い取り、繁殖し続け、輝きを放つガラスで覆われた塔達――。