アイ・ドール
シフォンの正体を疑う事もなく、言動と歌声に酔いしれ、歓声を上げる人々――――。
「なんでシフォンが大トリで歌えねぇんだよ――もうこんな番組出ねぇぞっ――」
番組終了後の楽屋においても、マネージャーに向かって悪態をつくシフォンの声が響く――。
「すいません――本当にすいません――」
マネージャーが謝罪を繰り返していた。
彼女らが出演していた時、僅かだったが私はシフォンのマネージャーと会話を交わした――。
縁のない眼鏡をかけ、黒に近い濃紺のスーツを几帳面に着こなし、私やスタッフ達に対しても、真摯な態度と言葉遣いで対応する姿勢――――シフォンには出来過ぎな、長身の男性マネージャー。
が、シフォンの傍若無人さに蝕まれたのだろう、彼の気と姿は何処となく疲れ、痩せ細っている様に見える――。
「大変ですね――」
思わず本音が漏れてしまった。
「そう思われますか――」
言葉は丁寧だが、声の勢いは明らかに失せていた――。
何かを思い出したのか、仄かに笑った――。
シフォンも最初から、ああではなかったと遠くに視線を飛ばし、言った。