アイ・ドール
私の毒だけでは、あるいはシフォンを消せなかったのではないか――――魂の最下層に追いやられた明子の自我に、毎日、毎日、諦めずに脈々と愛を注ぎ続けた彼と、それをシフォンに悟られない様に受け取った明子の自我――――二人の愛こそが、シフォン消滅の最大の要因なのかもしれない――――。
私の毒など、ちょっとしたきっかけに過ぎないのだ――。
己の私欲に走り、人を蔑み、陥れたシフォンは、愛を軽んじ、愛に負けた――――。
「何をすべきか、わかりますね――」
「この世界から去れ」とは言えなかった――二人の醸し出す雰囲気にそぐわない気がして、当たり障りのない言葉を用いた――。
「はい――――」
彼の、覚悟と自信に溢れた眼差しと声だった――。
シフォンとの魂の闘いが終結し、「歌姫」は真に解放された――――。
スタジオの出口へと私は歩み出す――。
「救ってくれて――ありがとう――――」
明子が、彼の胸元から顔の覗かせて言った。
「いいのよ――――幸せになりなさい――――」
穏やかに私は返した――――。
明子は輝きを取り戻した。