アイ・ドール

 人間としての輝きを――――。


 生きてゆく希望を確固たるものとした歓喜の情を湛えた光――。



 なんて綺麗な光なのだろう――――こんなにも人は美しくなれるものなのか――――。




「ありがとう――――舞さん――」


 橋本 明子が、美しさを取り戻した端麗な顔立ちで言い、微笑んだ――。



 私が紅を引いて描いた獣のシフォンは、消えていた――――。



「さようなら――――」



 優しさ、悲しさ、切なさ、憂い、麗か――――全ての想いを滲ませた瞳で二人を見て言い、私はスタジオを出た――――。


 閉まってゆく分厚いドアの隙間の向こうで、二人は濃厚な口づけを交わしていた――――。






「何、笑ってるのマイマイ――」


 雪が不思議そうな顔で言う――。


「シフォンさんと、何かあったの――」


 後席で、流花が問う――――最後列のアリスは相変わらず、「寝て」いる。



「別に、いつもと変わりないし、シフォンさんとも何もないわよ――」


 そう答える私の口元は、緩む一方だった――。


「そうかなぁ――」

 諦めの悪い雪――。

「そうよ――」

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