アイ・ドール
もう、私は何も言い返せないし、言葉も見つからない。
「舞さんの性格だと、きっと悪い方へと考えが傾いてしまうのでしょう。でもね、考え込んで古い世界に固執する人間になんて何の価値もないわ。人間は決断し、行動を起こしてこそ価値を与えられる存在になるの。小さな一歩を踏み出す勇気があれば、舞さんにも価値のある人生がきっと輝き始める筈よ――」
「そうね――誰しもがいい服を着て、高級車に乗り、広い家に暮らし、宝飾品を身に纏い、一流レストランで食事し、健康で、有り余るお金を得て何不自由なく生きたい――それが本音だと思うの。私達は縁があって出逢った――不思議なものね。だからこそ、この恵まれた条件を舞さんは真摯に受け入れ、生きてゆかなければならない――決断し、恐れずに自らの人生を歩んでゆかなければならない。それこそが、人間だと思うの――」
そう言ったきり、もう社長は何も語らなくなった――。
後は自分で決めなさい――と、沈黙した空間で私に迫る。
こうなる事を見越しての巧妙な「戦略」に、取り込まれてしまったのか。
もう、逃げ道はない。ここで今、決めるしかない――。