アイ・ドール

9―「わたあめ」


月があり、雲が覆い、雪が降る――――月が現れ、雲が覆い、雪が降る――――。


何とも不思議な空模様が繰り返される――。


ライブも後半にさしかかった頃、会場から浴びる「熱」と、自身から放出される「火照り」を冷ます為、月でも眺めようと外に出て、見上げた空は私に気まぐれな表情を見せている――――。



雪が止み、雲が払われ、天空に白く輝きを放つ満月――――。



「美しい――――」


魂が呼応する――。


こんなにも凛として、しとやかな佇まいの空の下で、私達は何をやっているのだろう――。


果てしなく行われる無用な競争――欺きによって自らを偽人化させてゆく思考――。


陰惨極まりない事件や、愛する者までも地の底に陥れる謀略――。


何処までも堕ち果てる道徳――。


権力者という道化師と、それらに寄生し、取り憑く者達が繰り広げる地位の維持――その為なら、良心、常識をも封印し、魂を偽る――――。



この世界の何処が煌めいているというのか――。



偽りの魂が蔓延る世界において、美しく輝く未来を私達は築き続ける事ができるのだろうか――――。

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