アイ・ドール
投資会社を設立、経営する父。生活する為の資金が、私の将来にもわたり心配する必要のない額にまで達していた家庭。何不自由なく贅沢な暮らしが可能な環境――。
しかし、私が産まれて程なく両親は離婚。その理由は今現在も私に説明はない。
私は、母の顔や温もりを知らない――。
親権は父に与えられたが、常に仕事で家になく、無駄に広いダイニングルームでイタリア製の高級チェアに一人ぽつんと座り、高級食材を揃え、一流の腕を持つ調理人がてがけた料理さえ、メイドに運ばれ、私の口の中に入った瞬間に、味と温かさを失い、心の中の氷の世界へ旅立つ単なる栄養補給という食事の日常――。
買い与えられた、ぬいぐるみや人形だけが、幼い頃の私の唯一の友達であり、家族であり、理解者だった――決して答えは返ってこなかったけれど――。
幼稚園、小中学校の「楽しい」記憶は――ない。私に対するいじめもあったのかもしれない。しかし、「しれない」と感じる程にしか認識できない位、この時の私は「幽体」だった――。
けれど、「諦め」の気持ちで入った有名女子校での3年間は、渇いた私の心を潤してくれた――。